面接の予定は、来週に入っていました。週に3日でいい。もう一度働きたい。老後のお金のことを考えると、このまま何もしないわけにはいかない。そう思って、久しぶりに出した応募でした。
その数日前に、体調が崩れました。車を運転している途中で顔色が悪くなり、目的地に着いたあと、意識が飛ぶような感覚に襲われた。車の中で30分休んで、その日は一日、調子が戻らなかったそうです。
そして、面接を断りました。日程をずらしてもらうのではなく、応募そのものを取り下げた。「採用されても、出社できない。勤め上げられない」。そう思ったからだと、その方は話してくださいました。
いちばん傷つくのは、体ではなく自分への評価
働きたくないわけではありません。むしろ焦っている。それなのに、応募を取り下げるという判断を、自分でしなければならない。
このとき深く傷つくのは、体ではありません。自分に対する評価のほうです。
「また続かなかった」
「結局、自分は何もやり遂げられない」
動悸そのものよりも、この一言のほうが長く残ります。似た経験をされた方は、少なくないと思います。
断ったのは、あなたが弱いからではありません
心臓が気になる状態で仕事を探すというのは、実際にはかなり難しいことです。
面接に行けるかどうか、ではありません。採用されたあと、毎朝決まった時間に家を出て、決まった時間まで働き続けられるか。そこを先に想像してしまう。想像した先で「たぶん無理だ」という答えが出てしまう。だから、その前に手を引く。
これは逃げではなく、予測です。しかも真面目な人ほど、この予測が正確に働きます。迷惑をかけたくない、途中で辞めたくない、という気持ちが強いほど、応募のハードルは上がっていきます。
私がこういう方にまず言うのは、「仕事が続けられないほど、怖かったんですね」という一言です。励ましでも、アドバイスでもありません。それほどの怖さがあった、という事実をそのまま受け取る。ここを飛ばして「大丈夫ですよ」と言っても、届かないからです。
控えていく順番には、決まったパターンがあります
心臓の不安が強くなると、生活の中で「控えるもの」が増えていきます。私が相談を受けてきた中で、その順番にはある程度の共通パターンがあります。
- 最初に控えるのは、旅行・外出・食事会・飲み会・ライブ。楽しみのために出かける予定から、まず消えます。
- 次が、仕事や電車のような「逃げ場のない環境」。電車に乗っている途中で出たらどうしよう。仕事中に出たらどうしよう。自由に休めない場所ほど、不安を強くします。
- その次が、近所の買い物・ゴミ出し・近くのカフェ。家のすぐ外まで、行動範囲が縮みます。
- 最後は、家の中で体を使うこと。掃除のように体を動かす家事が、しんどくなる。「思いっきり掃除がしたい」と話される方もいました。それすら控えるようになるのです。
この順番を知っておくと、自分が今どの段階にいるのかが見えてきます。そして大事なのは、戻るときは、この逆の順番だということです。
「働く話」ができるのは、どの段階からか
家を出た瞬間に「歩けない、怖い」と感じる。近所のスーパーに行くのが精一杯。この状態から、いきなり週3日の勤務までは距離があります。
でも、距離があることと、たどり着けないことは違います。
私が「そろそろ働く話をしてもいい」と判断する目安は、こういう状態です。
- ゴミ出しや近所の買い物に、迷わず行ける
- 近くのカフェで、ひとりで過ごせる
- 電車や車で、少し離れた場所まで外出できる
とくに3つ目が大きいです。通勤は、車でも電車でも「その時間は自分の都合で止まれない」環境です。仕事中も同じで、自由に休んだり抜けたりはできません。だから、逃げ場のない移動にある程度の自信がついてからでないと、働く話は現実味を持ちにくいのです。
逆に言えば、ここまで戻ってきていれば、「勤め上げられない」という予測は、もう過去の自分を基準にした予測になっています。
面接を断った日が、終わりではありません
冒頭の方は、応募を取り下げた自分を、長いあいだ責めていました。でも、あの日の判断は「働けない人」の判断ではなく、「今の段階では逃げ場のない環境がまだ怖い人」の判断です。段階が変われば、判断も変わります。
いま家のすぐ外までしか行けないなら、そこが出発点です。ゴミ出し、近所の買い物、カフェ、少し遠くへの外出。一段ずつ「大丈夫だった」という事実を積み重ねていくと、働く話は、自然に自分の口から出てくるようになります。
まとめ
動悸が怖くて仕事を諦めるのは、弱さではなく、真面目な人ほど正確に働く予測です。控えていく順番には共通のパターンがあり、戻るときはその逆の順番。近所の外出から、逃げ場のない移動まで戻ってきたときが、働く話を始めていい目安です。あの日の判断は、今の段階の判断でしかありません。
※この記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療を行うものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。